マルチマイキングの基本

マルチマイキングというのは、1つの音源(楽器)に対して複数のマイクを使用することを言います。

マルチマイキングの代表としてあげられるのが、ドラムのマイキングです。

ドラムは、様々な音域の様々な楽器が集まって構成されている楽器です。

この楽器を1本のマイクで思った通りの音量バランスで収音することはなかなか難しいのです。

そこで、マルチマイキングという手法が使われるのです。

マルチマイキングのメリットは、「音作りの自由度が広がる」という事です。

例えばマイク一本で収音した場合で、バスドラムの音量を上げたいと思ってマイクの音量を上げてしまうと、他のパート(スネア、タム、シンバルなど)の音量も一緒に上がってしまいます。

また、一本のマイクできれいに収音するためには、「マイキングの位置」がものすごく重要になります。レコーディングなどの、各楽器がそれぞれのブースで別録りできるような環境であれば、頑張ってそのようなマイキングの位置を探すことができるかもしれませんが、PAとなるとドラムセットの構成、他の楽器の音量、会場の反響、客入れ時の環境の変化などの要因があり、バランス良く音が鳴っている位置を探すのは至難の業です。

従って、現代のPAにおいては、ドラムのマルチマイキングというのは「一般的」になっているのです。

オンマイクとオフマイク

マルチマイキングを行う際には、「オンマイク」と「オフマイク」の違いを知る必要があります。

  • オンマイク
    収音したい音源の近くにマイクを設置することを言います。他のパートとの「カブリ」を防ぐ場合に有効な手法です。収音したい音そのものを収音する際にはオンマイクという手法を使います。
  • オフマイク
    収音したい音源から少し離れた位置にマイクを設置することを言います。この方法は、音源から離れたところにマイクを設置するため、他のパートの音のカブリはありますが、その代わりに「空気感」を出すことができます。

ドラムで言うと、バスドラム、スネア、タムはオンマイク、シンバル類はオフマイクで収音するのが一般的です。

マルチマイキングにおける位相のズレ

PAをいろいろと勉強し始めると必ずぶつかる問題が「位相」の問題です。

そして、位相を勉強し始めるとマルチマイキングの位相についての問題が見えてくるはずです。

例えば、スネアのマイクに入っているハイハットの音とハイハットのマイクの音は、厳密に言うと位相がずれています。

これは、マイクの向いている方向、置かれている高さが異なるためです。

しかし、これを気にしだすと、ドラムに設置されているマイクに入って来る音は、すべて「位相がズレた音」と言えます。

この位相ズレを解決する方法はありません。唯一あるとしたら、一本のマイクで収音することくらいでしょう。

しかし、これでは音作りが制限されてしまいます。このようなことを踏まえると「マルチマイキングでは位相ズレが起こって当たり前」というのを前提に考えたほうが良さそうです。

この位相ズレがずれてしまうというデメリットをマルチマイキングのメリットを最大限活かすことでカバーするしかないということですね。

この位相ズレを気にしすぎて、ミキサーにある位相反転スイッチを多用すると余計に音作りが難しくなります。

位相反転スイッチは、スネアの表、裏のような明らかに位相が逆と分かる音源にしか使用しない方が良いかと思います。

マルチマイキングで収音した音は、言ってしまえば「不自然な音になって当たり前」なのです。

この不自然な音をできる限り自然な音に近づけるのがPAの役割でもあります。

以上がマルチマイキングの基本です。