ライブで良い音を出すための知識~ボーカル編~
ボーカルがライブで良い音を出すためには「歌をうまく歌えるようにする」ということになるのですが、それは私の専門外であるので、PA的な視点でボーカルがより良い音を出すためにはどうしたら良いか?というのを書いていきます。
ボーカルが良い音を出すためには以下の2つの対策が必要です。
- マイクの使い方をマスターする
- 自分の歌のスタイルに合ったマイクを探す
これをするだけで見違えるように良い音が出せるようになります。
それでは1つずつ説明していきます。
マイクの使い方をマスターする
ライブで良い音を出すためには、マイクの使い方をマスターする必要があります。
「マイクの使い方?握って、丸い部分に向かって歌えばいいだけじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かにその通りなのですが、より良い音を出すためには、それだけではダメなのです。
もっと巧みなマイクの使い方をマスターする必要があるのです。
その前に基本的なマイクの使い方ですが、絶対にやってはダメなことがあります。
それはグリルボールの部分を手で覆ってしまうことです。(下図参照)
こうすることによって、端的に言うと「音が悪くなる」のです。
音を良くするための話をしてるので、これは絶対にやってはいけません。
これを理解していただいた上で本題に入ります。
マイクの使い方によってより良い音を出す方法としては、「マイクと口の距離、角度を工夫する」ということがあげられます。
マイクには指向性というものがあります。
以下にSHURE社のSM58のようなダイナミックマイクと呼ばれるマイクの指向性を表した図を載せました。
円の中心がマイクが音を拾う部分で、円の上方向が歌い手側です。
そして、黒い線や点線で囲まれたりんごのような形をしている図が指向性を表す図です。
つまり、このこの範囲の音を拾うのです。
もっとわかりやすく3Dで表すとこのようになります。
これを見ることで、実は以下のようなことが分かるのです。
- 前方向しか音を拾わない
- マイクの正面から角度がすれればすれるほど拾う音が小さくなる
また、当然ですが、マイクから離れれば離れるほど音は小さくなります。
上手いボーカリストは、この特性を上手く利用しているのです。
ボーカルはギターのようにエフェクター(音を変える機械)を間に挟んで音色を変えるようなパートではありません。(最近ではボーカルエフェクターを使用する方も増えてきていますが)したがって、PA的な観点でのボーカルの良し悪しは、「マイクの特性を活かして、歌の強弱をどう表現できるか」ということになります。
上手いボーカリストが歌っている姿を見ると、必ずしもマイクと口の距離や角度は一定ではないはずです。
例えば、大サビの最後にビブラートを聞かせながら音を伸ばす場面では、徐々にマイクを遠ざけたりします。
するとスピーカーから出る音はフェードアウトしたかのように聞こえるのです。
これによって歌に動きが出てくるわけですね。
その他のテクニックとしては、マイクと口の角度を変えるというものです。
角度が正面から外れると音が小さくなるのと同時に低い音を拾いにくくなるのです。
つまり、カリッとした声を出したい場合などは、あえてマイクと口の角度をずらすということをするようなものもあります。
このように、マイクの特性を活かして、歌に強弱をつけることで表現力を高めることが出来るのです。
自分の歌のスタイルに合ったマイクを探す
「マイクなんてどれ使っても一緒でしょ?」と思っている方は意外と多いという事実があります。
しかし、実際にPAをやるようになると「マイクによって音は変わる」という思うようになります。つまり、ボーカルの歌もマイクによって大きく変わるということです。
以前に友人に聞き比べ実験をさせたことがありました。
確かその時は「定番マイクSHURE SM58と同社のBETA58」の比較でした。ミキサー側は全く同じ設定で、マイクの差し替えをしながらそれぞれの音を実際に試してもらったのです。
その結果、友人はマイクによる違いをはっきりと感じ、「こんなにも違うのか??」という驚いた顔をしていました。
それくらい、マイクによって様々な特徴があるのです。
また別の友人のボーカリストの話ですが、「これ、楽器屋で一番高いやつ買ってきたんだ!」と私に自慢してきたので、「それ音出してみた?」と聞くと「出してない」との回答でした。
結果として、このマイクはこの友人の声とは相性が悪かったのです。
それよりもその半値のマイクの方がむしろしっくりきました。
このようにマイクを選ぶ際には、金額や店員さんのおススメだけでは選ばないようにしましょう。
しっかりと音を出して、自分に合うマイクを選びましょう。
その際に、PAを知っている人に同行してもらうのがベストです。
マイマイクを持ち込む際の注意点
マイマイクを使用することのメリットはご理解いただけたと思いますが、デメリットがあることも事実です。
そのデメリットとしては、ボーカルマイクを変えることでPA側でのチューニング(外音、中音)がずれてくるということです。
「ずれる」というのが良く分からないと思いますのでこの部分を詳しく説明いたします。
ライブの仕込み段階では、PAシステムのチューニングを行います。
その際に使用するマイクは各PAオペレーター、各PA会社によって決まっているはずです。
私の場合はSHURE社のSM58という定番のマイクを使用してチューニングを行います。
チューニングとはイコライザーなどを使用して周波数特性のクセを取っていく作業です。
また、ハウリングしやすい周波数帯をカットする作業でもあります。
この作業をSM58を使用して行います。
リハーサル前にはこの作業が完了していますので、その後にSM58以外のマイクに差し替えたらどうなるでしょうか?せっかくチューニングした内容が基準であるマイクを変えることで台無しになってしまうのです。
このため、特にシビアな音響チューニングが求められるプロの世界ではボーカルマイクを変えることはリスクなのです。マイクを変えたがためにハウリングが多発してしまっては元も子もありません。
このようなことから、理想を言うとマイクを持ち込む際にはリハーサル前にPAオペレーターに渡してチューニングを済ませてもらうことが望まれます。
しかし、このような対応を嫌がるPAオペレーターがいることも事実です。
この時に間違ってもライブ会場でPAオペレーターとケンカするようなことだけは避けましょう。
イベントが台無しになります。
マイマイクをライブで使用する際には、「お客様に良い音を届ける」という本来の目的をブラさずに、「PA側で準備したマイクを使用する」のか「持ち込みのマイマイクを使用する」のかを判断する判断力が必要になってきます。
時には、勇気を持ってマイマイクを使わないという判断をすることが必要なのかもしれません。
以上がボーカリストがライブで良い音を出すための方法です。