デジタルミキサーとアナログミキサーの違い

ミキシングコンソールの大きな分類方法として「アナログ」「デジタル」という分け方があります。

ここでの「アナログ」「デジタル」というのは、「音」を電気信号に変換したものを「アナログ信号として扱うか?」「デジタル信号として扱うか?」といったような信号の取り扱い方法の違いを表しています。

PAというものが始まった当初は、ミキシングコンソールと言えばアナログミキサーのことを指しており、デジタルミキサーというものは存在しておりませんでした。

しかし近年、一気にデジタルミキサーが普及し、多くのPA現場でデジタルミキサーを見かけるようになってきました。

こうなると、気になるのは「アナログミキサーとデジタルミキサーの違いって何なの?」というところだと思います。

このページでは、そんな疑問に答えるべくアナログミキサーとデジタルミキサーの違いについてご説明していきたいと思います。

音質の違いについて

ミキシングコンソールは「音」を扱う機器であるため、一番気になるのは「音質」です。

理論上は、デジタルミキサーがアナログミキサーよりも音質が良くなるということはありません。

なぜなら、デジタル信号というのは、アナログ信号をデジタル変換したものだからです。

デジタル信号は、アナログ信号を部分的にサンプリングして音を再現しているにすぎません。

つまり、極端な言い方をしてしまえば、デジタルの音というのは「アナログに似せた音」とも言うことが出来ます。

「似せた音」なので元のアナログの音に勝てるわけは無いのです。

ただし、これはミキシングコンソール内での信号処理の話であって、実際にスピーカーから出る音となると話が変わってきます。

その理由としては、「伝送ロス」というものが大きく関わってきます。

アナログ信号の場合は、ミキシングコンソールとスピーカーの距離が長いと電気信号の損失(劣化)が起こってしまいます。

一方、デジタル信号の場は、基本的には「0」と「1」で信号を構成するため損失というのが起こりにくいのです。

このようなことがあるため、一概に「アナログの方が良い」「デジタルの方が良い」とは言えないのが実際のところです。

しかし、近年のデジタルミキサーの進化により、高音質で音声を処理する技術が進んでいるため、今後は間違いなくデジタルミキサーが主流となっていくことでしょう。

特に長距離伝送を行わなければならない、大規模な会場でPAを行う場合はその傾向が強くなるでしょう。

操作性の違いについて

「操作性」という点でアナログミキサーとデジタルミキサーの大きな違いは、「全チャンネルの状況が一覧できるか、できないか」ということです。

アナログミキサーの場合は必要なフェーダーやツマミはすべてミキシングコンソールの場面に設置されており、全てのチャンネルのツマミやフェーダーの状況が一目で分かります。

一方、デジタルミキサーの場合は、すべてのチャンネルの設定状況は一目見ただけでは分かりません。

基本的にデジタルミキサーというのは、自分で選択したチャンネルミキサーの場面に表示する仕様になっています。

極端なことを言ってしまえば、1chを選択した状態では、2chの設定状況は分からないという感じです。

つまり、確認したいチャンネルを都度選択しながら操作していくという形になります。

この観点では、アナログミキサーに軍配が上がりそうです。

しかし、操作性という展でのデジタルミキサーのメリットは、自分の目の前に必要な情報を呼び出せる点あります。

これは、小型のミキサーの場合はあまり恩恵はありませんが、ある程度チャンネル数の多いミキサーを扱う場合には大きなメリットとなってきます。

自分自身が必要以上に移動したり手を伸ばしたりする必要がないというのは、長時間オペレートする際にはありがたいことですね。

サイズの違いについて

ミキシングコンソールのサイズはモデルによりまちまちですが、同じチャンネル数であればデジタルミキサーの方がサイズは小さくなるのが一般的です。また、重量も軽くなります。

例えば、32chのミキシングコンソールを例にしてみましょう。

リーズナブルな32chのアナログミキサーとしてSOUNDCRAFT ( サウンドクラフト )  GB4 32ch、デジタルミキサーとしてBEHRINGER ( ベリンガー )  X32という機種を例に考えてみましょう。

SOUNDCRAFT / GB4 32ch

■サイズ:1300(W)×656(D)mm×169(H)
■重量:32.3kg

BEHRINGER / X32

■寸法:900W×528D×200Hmm
■重量:20.6kg

寸法でいうと、GB4が1300mmに対して、X32は900と400mmも小さいことが分かります。
また、奥行きについてもGB4が656mmに対して、X32は528mmと128mmの差があることが分かります。

このように、同一チャンネル数のミキシングコンソールであれば、デジタルの方がコンパクトだということが言えます。

また、重量に関してはGB4が32.3kgに対して、X32は20.6kgと11.7kgも軽いのです。

実際に、X32であれば一人でミキシングコンソールを運搬・設置することも可能ですが、GB4となると1人で運搬・設置するのは少し厳しと思います。

ライブハウスなどのように、ミキシングコンソールを常設してしまうような場所であればアナログでも良いかもしれませんが、設置・バラしを繰り返す仮設PAの場合はデジタルミキサーの方がメリットがありそうです。

エフェクターついて

PAをする際には、ミキシングコンソールで音質や音量を調整することに加え、エフェクト(音響効果)を加えるのが一般的です。

エフェクトを加える機器をエフェクターと呼ぶのですが、エフェクターは大きく分けると「ダイナミクス系エフェクター」と「空間系エフェクター」に分けられます。

ダイナミクス系エフェクターにはイコライザーやコンプレッサーといったものがあり、空間系エフェクターにはリーバーブやディレイといったものがあります。

これらのエフェクターですが、デジタルミキサーの場合には、基本的には多くのエフェクターがソフトとして内蔵されています。

一方、アナログミキサーの場合は、内蔵されていない場合がほとんどですので、別に機器を接続する必要があります。

チャンネル数が多ければ多いほど、このエフェクターの数も増えていきますので、機材量も増えてしまいます。

ただし、このような機材のラックに囲まれているのが好きな方もいらっしゃいますのでそのあたりは好みの問題です。

リハーサルデーターの復元

ライブイベントなどでは、ほとんどの場合、リハーサルを行います。

そして、本場の際には、リハーサルで設定した状態を再現する必要があります。

アナログミキサーの場合は、キューシートという紙にミキシングコンソールのフェーダーやツマミやボタンの設定状態を記録しておきます。

例えば、10バンド出演するイベントの場合は、10枚のキューシートを書き本番の前にその状態を復元することが求められます。

この作業が慣れるまではなかなか大変です。

1チャンネルずつずれて設定してしまったと言ったら大惨事になってしまうかもしれません。
慎重さとスピードが求められる作業ですね。

この苦労を一瞬で解決してくれるのがデジタルミキサーのシーンメモリー機能です。

この機能は、リハーサル時の設定データをミキサー本体に記録することが出来るのです。

そして、本番前にはそのデータを呼び出せばいいだけです。

この作業時間の短縮は時間の限られたイベントの中では非常にありがたいことです。

多数のバンドが出演するようなイベントにおいては、絶対にデジタルミキサーがおススメです。

 

デジタルミキサーが発売された当初は、音質や信頼性についてはアナログミキサーの圧勝でした。

しかし、近年のデジタルミキサーは、以前の弱点をどんどん克服していっています。

これもデジタルミキサーが急激に普及していっている要因でしょう。

このような点も踏まえながら、あなたのPAスタイルに合ったミキシングコンソールを選ぶようにしていただければと思います。