PAエンジニアが出演者に説明すべき注意事項

メインスピーカー、モニタースピーカーのチェックが完了したらいよいよリハーサルに移ります。

とその前に、イベントを円滑に進めるために、出演者の方にPAに関する注意点を説明しておいた方が良いでしょう。

私の経験も踏まえて、出演者の方々に事前に説明しておいた方が良い事とその理由をまとめました。

「そんなの知っているよ!」という出演者の方はたくさんいると思いますが、再認識する意味でも説明した方が良いと思います。

特に初心者の方には特に重点的に説明してあげた方が良いかと思います。

マイクに関する注意点

ボーカルマイクのグリルボール(マイクのてっぺんの丸い部分)は握らない。

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理由はマイクの構造上の理由になります。

ボーカルに使用されるダイナミックマイクはハウリングに強い単一指向性(正面の音しか拾わない)特性になっていますが、この特性を作るためにはマイクの後ろ(ボーカルとは逆側)から入ってくる音が必要なのです。

この音とこの音が回り込んで正面から入る音を合成すると実はうまく相殺されるのです。

そのため、正面の音しか拾わないという特性ができるのです。

従って、マイクのグリルボールを握ってしまうと、この相殺が起こらなくなってしまうのです。

そして、余計な音を拾ってしまい結果的にハウリングしやすくなるのです。

持ち込みのマイクがある際は指示があるまで差し替えない

差し替え対象のマイクのチャンネルがもしオンになってた場合は、差し替えの際に「バチっ!」というノイズが出てしまいます。

このようなノイズはスピーカーにとって良いものではないので、チャンネルをオフにするまでは差し替えないように指示する必要があります。

これは、ボーカルエフェクター持ち込みの場合も同様です。

楽器に関する注意点

ベースやキーボードなどのラインで集音する楽器は指示があるまで抜き差ししない

これは、持ち込みマイクと一緒の理由です。

特にライブ慣れしていないベーシストに関しては注意が必要です。

なぜなら、スタジオ練習ではライン信号をミキサーに送るということはしないため、このような問題は発生しないからです。

ワイヤレス機器に関する注意点

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ワイヤレス機器には「電波の干渉」という問題が起こり得ることを説明

電波の干渉とは、自分が使用するワイヤレス機器以外のワイヤレス機器からの電波が邪魔をしてうまく受信できなくなることを言います。

ワイヤレス機器にはA帯、B帯、C帯、2.4GHz帯というような電波規格があります。

A帯仕様のワイヤレスマイクを使用するには免許が必要になります。

使用する際にも事前に申請をするため、干渉するということはほぼありません。

B帯にについては、使用するのに免許は要りません。

別名アナログワイヤレスなどと言われたりします。
この仕様のワイヤレスシステムは多いです。

それゆえに干渉も起こりやすくなります。

C帯は音質的にあまり良くないため楽器やマイクのワイヤレスシステムにはあまり使用されないためここでは触れないことにします。

最後に2.4GHz帯ですが、これはデジタルワイヤレスと呼ばれています。

音質的にも良く、デジタル特有の硬い音というのも最近は改善されてきているため、普及率は伸びてきている傾向にあると思います。

しかし、2.4GHz帯の弱点は無線LANなどもこの周波数帯を使用しているということです。

無線LANのルーターやポケットWi-Fiは今やどこでもありますよね?

これが電波干渉の原因になるのです。

どの帯域のワイヤレスマイク(システム)も干渉に対する対策としては同じで、

・レシーバーの位置を工夫する
・ワイヤレス機器のチャンネルを変更する

のどちらかになります。

出演者にお願いしなければいけないのは「チャンネル変更」のため、注意事項説明の際に「ワイヤレス機器は干渉が起こり得るものなので、こちらチャンネル変更をお願いする場合があります。

その際はご協力ください」と言っておけば問題無いでしょう。

ステージ上で出す音に関する注意点

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ステージ上での音量バランスは、練習スタジオと一緒がベストであることを説明

バンド練習をスタジオでやった際にはそれぞれのパートがバランス良くなるようにしているバンドでも、なぜかライブになるとアンプの音量をいつも以上に上げてしまうギタリストやベーシストの方はたくさんいらっしゃいます。

私もミュージシャンなので何となく気持ちは理解できます。

しかし、それをすることでバンド全体の音のバランスが崩れることを理解しなければなりません。

PAの役割は基本的にはステージ上の音をそのまま会場サイズに合わせて拡声することです。

これを考えた時に小さい音はなんとか頑張れば大きくしてバランスを整えることができますが、問題はステージ上で大きい音を鳴らされてしまった場合です。

この場合は、残念ながらPAとしてはお手上げ状態です。

アンプ側のボリュームを下げるしか対策が無いためです。

こうなると、外の音だけでなく、中音(モニター)にも影響が出てきます。

ギターとボーカルの声はケンカする場合が多いです。

分かりやすく言うと、ギターが大音量で鳴っているとボーカルが聞こえにくくなるいうことです。

こうなると、「ボーカルのモニター上げてください」となり、その結果、ボーカルモニターでハウリングが多発するという悪循環に入ってしまいます。

そのため、お客さんにバランスの取れたバンドサウンドを届けたいのであれば、まずはステージ上の音のバランスを整える必要があるということを出演者の方には理解していただく必要があります。

モニタースピーカー関する注意点

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モニタースピーカーから出す音はできるだけ最小限にするのが基本

客席に良い音を届けるという観点でいくと、モニタースピーカーからはできるだけ音を出さない方が良いのです。

これは、なぜかというと、モニタースピーカーから出た音が、ステージ後ろの壁に反射して客席に飛んでいくわけですが、この音はメインスピーカーから出た音に比べると、少し遅れて客席に届きます。

このようなことが起きると会場に届く音がぼやけるのです。

これを専門的な言葉で言うと位相が乱れていると言います。

したがって、モニターからはできるだけ音を出さないようにするというのが私の基本的な考え方です。

初期設定としては、「ボーカル、自分のパートの音、自分のコーラスの声」を返す設定にしておきます。

リハーサルの中で要望があればそれを追加していくという対応をしています。

まとめ

リハーサルは、トラブルなく、良い音で本番を迎えられるようにするための重要な下準備の場です。

PAエンジニアがやるべきことをやるのはもちろんのこと、出演者に対しては「やってはいけないことの周知」をしてあげることが重要です。

これができているのといないのでは、本番でもトラブルの発生確率が異なってきます。

面倒でも、しっかりと出演者に対してPAに関する注意事項を説明しておきたいですね。